僕はDay Dream Believer

モロモロの日々

向き合えない家族-『家族ゲーム』

高度経済成長期。誰もが良い学校に行って大手に就職するということがステータスとなっていった。そのために皆、当たり前のように勉強する。子供は何も考えずに勉強する。親は皆「良い高校へ行け」と口々に言う。家族というものから個性がなくなりつつあった時代にこの映画は生まれたのだと思う。

どこにでもいそうなごく普通の家庭・沼田家。父・孝介(伊丹十三)は典型的なサラリーマン。楽しみにしているのは、毎朝目玉焼きの半熟の黄身を吸うことと、毎夜風呂で豆乳を飲むことだ。母・千賀子(由紀さおり)も絵に書いたような専業主婦。二人は子供が良い高校に行ければそれで良いと考えるどこにでもいる両親だ。兄・慎一(辻田順一)は進学校・西武高校に通う1年生。優秀であるため両親は何も言わない。そして受験生茂之(宮川一朗太)は何事もやる気がなく、いじめられているの中学三年生。どこか変な「問題児」である。受験生の息子がいるのでこの家庭の話題はいつも「受験」や「進学」のことだ。茂之はこの状況を「僕の受験で家中がピリピリなってうるさい」と感じている。つまり沼田家は平均的な家族なのである。茂之を進学校へ入れるために両親は家庭教師・吉本勝(松田優作)を雇う。吉本はいつも植物図鑑を手にし、出された飲み物は必ず一気に飲む三流大学の7年生。「奥の細道」もろくに読めない。

この映画では、家族の位置関係が重要になっている。家族はなぜか横一列で食事をする。誰も対面に座らないのだ。左端の母親から一番右にいる長男に話しかけることはできない。つまり誰も家族と向き合ってないのだ。口では「良い高校に行け」と言うのだが、いざなると父は「俺が説教するとバット殺人事件が起こる」と説教をせず、母に擦り付ける。それに対して母は「私ばっかり世話をして。あの頃に戻りたい」と若き日のことを恨めしく思う。どうやって子供と接していいのかわからないのだ。だから平均的な家族と同じように「勉強をしろ」といか言えないのだ。対して息子は家では本音を言えず(母親のはじめての生理を聞けるくせに!!)、志望校を変えたいときも家を飛び出してしまう。茂之は家の中で本音を言うことはなかった。

茂之は吉本に勉強を教えてもらうことで成績も上がり、やっと普通の子供らしい笑顔を見せるようになる。やがて吉本に喧嘩の勝ち方やコブラツイストの掛け方など勉強以外のことも教わるようになった。希望志望校書類提出締め切り日、茂之はまだ書類を出していなかった。女と戯れている吉本の元に母親から電話がかかってくる。用件は学校まで行って担任を説得して志望校を進学校である西武高にしてくれとのこと。それに対し吉本は「あなたが行けばいいじゃないですか?」と言うが、母親はどうしようもない言い訳をする。ほんとにどうしようもなくて覚えてねぇや!!吉本は沼田家の父親の象徴である豆乳を飲み学校へ行く。茂之にとって家庭教師吉本は父親のような存在なのだ。

茂之が無事西武高に受かり、家族と吉本でお祝いのパーティを開くことになった。いつもどおり横一列である。このパーティで父親は吉本は今度は最近学校に行ってない長男の家庭教師をやってくれないかと頼む。
「城南大の者が国立大受かるようには教えられませんよ」
「へぇ、そうなんだ。駄目なんだねぇ、城南大は。慎一、今までずっとお父さん茂之にかかりっきりだったけど、これからはお前のことビシバシやるぞ!」
これを聞いて吉本がキレる。

吉本はワインを父にこぼし、残飯を父の皿に盛り、ゴミを散らかし、パスタを投げる。その間父と母のどうしようもない説教が続く。さらに二人の子供も食べ物を投げる。やっと気付いた父親が「あんた、何やってんだよ」と言うが時既に遅し、優作のボディブローが父の腹に決まる。さらに母を殴り、兄を頭突きし、少しだけ成長した茂之と格闘した後、やっぱり叩きのめす。表面だけの見せ掛け家族の食卓をひっくり返し破壊したのである。このシーンは本当に痛快で面白い。吉本が帰った後、家族4人は後片付けをする。残飯を拾う家族。このとき4人は初めて円になって向き合っている。しかし目線はどこにも向いておらず、誰も言葉を発することはなかった。

だいぶ端折ってしまいましたが、他にも見所がたくさんあります。長男の好きな女の子の大根具合とか。ブラックユーモア満載で終始ニヤニヤしてしまいます。この映画でも松田優作は強烈です。でも緊張感有りすぎるので冗談言ってても怖いです。うんこもらした話に笑う松田優作はかっこいい。

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