赦すことで闘う-『インビクタス/負けざる者たち』
高らかに理想を掲げる人には、ついつい信頼してしまう。理想は強力であればあるほど信頼を集めるのではなかろうか。しかし希望が見えなければ理想を掲げることはできない。ネルソン・マンデラはそれだけどん底の状況でも希望があることを信じ続ける、いわばポジティブな性格の持ち主であった。
クリント・イーストウッドが監督、または出演する映画には必ず「闘う男」が出てくる。『許されざる者』は暴力には暴力で返す「闘う男」。『ダーティハリー』はスコルピオに復讐する『闘う男』。『グラントリノ』は暴力の連鎖を止めるために「闘う男」。さまざまな熱く男が惚れてしまうほど男前な「闘う男」を描き続けてきた。ネルソン・マンデラもまた「闘う男」であった。しかし彼の闘う方法は暴力でも復讐でもなく赦しであった。27年間も投獄され痛めつけられたにも関わらず、出所後彼は誰も恨んではいなかった。「赦しが魂を自由にする。」その言葉通りマンデラは赦しを周りに感染させていく。新政権でクビになると思い荷物をまとめる白人職員たちに、ラグビーチームを廃止しようとする黒人によるスポーツ評議会に。彼は赦すことを国民に体を張って教えたのである。
彼はどんなに危ない状況でも国民の前に立つことを大事にした。自分の信念を自分の言葉と態度で伝えたいからである。彼の姿はみんなが慕う英雄というよりも良き隣人であり、その人間らしさに国民は魅かれたのである。それにしても懐が深い男だ。
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