僕はDay Dream Believer

モロモロの日々

不穏・不快・不安な『白いリボン』

白いリボン』鑑賞。

『ピアニスト』、『隠された記憶』でカンヌのグランプリや監督賞を受賞してきたミヒャエル・ハネケ監督の新作『白いリボン』を観てきました。本作でついに2009年カンヌ国際映画祭パルムドール大賞を受賞しました。

ドクターの落馬事故。小作人の転落死、男爵家の火事、荒らされたキャベツ畑、子供の失踪。それぞれの事件が徐々に村の空気を変えていく。誰の仕業なのか、皆が不信感を募らせる。そして村人たちの素の顔が次第に浮き彫りになっていく。村に潜む悪意、暴力、欺瞞の連鎖。少年の腕に巻かれた白いリボンは「純真で無垢な心」を守れるのだろうか・・・。

前提としてミヒャエル・ハネケ監督はクセのある作品を作ることで有名です。僕が唯一ハネケ監督で観たのはナオミ・ワッツティム・ロスが出演する『ファニーゲームUSA』です。内容は別荘にいる親子3人が突然現れた青年2人に暴力を振るわれるというものであまりネタバレになってしまって言えませんが、これが本当にただただ暴力を振るわれるだけの映画です。『ファニーゲームUSA』を観てハネケ監督はお約束が嫌いな人ということを凄く感じました。ハネケ監督自身が「私自身、見ている自分がバカのように扱われる映画が嫌いです。」と語っているように、ここが泣き所・ここが興奮する所といったありきたりなストーリーや映像をただ観客に見せて思考を停止させてしまうのが嫌いなのでしょう。だからこそ『ファニーゲームUSA』はお約束を裏切るショッキングな演出でした。映画を観た人が自由に想像し隙間を埋める。ハネケ監督はこの自由さを大事にしている人なのだと思います。

白いリボン』はただひとり外部から村にやってきた教師のナレーションによって進みます。事件が次々と起こるのですが教師はその表面上しか捉えていません。この外部から来た人間の視線で表面上は語られて、村に潜む《何か》は触れられない(気付いていない)という演出が物語をさらに気持ち悪くしていました。ですので村で次々と事件が起きるのですが最後まで犯人が誰であるのか語られることはありません。村では犯人探しが行われ色んな人に疑惑の目が向けられます。観客も同様に画面に映し出されるシーンを頼りに想像力を駆使し犯人探しをします。明らかに村には<何か>が潜んでおり怪しい奴もいる。あのシーンであいつは・・・あいつこそが・・・といつの間にか観客はこの村に住んでいる一人となってしまいます。田舎独特の不穏感とハネケ独特の不快感。この二つが相乗効果でさらに不快になる。そういった不快さや不安を楽しむ(と言っていいのかは分かりませんが)映画でしょう。

村で大人の社会と子供の社会が隔絶されているのが印象的でした。大人達は厳しく子供達を教育する反面暴力や不倫や近親相姦などの酷い行為をしています。神に仕える牧師でさえも自分の娘を間違って叱ります。そんな大人たちに正しい事や赦しを教えられあの村で成長していった子供達は何を感じたのでしょうか。そして第一次世界大戦直前に暮らしたこの子供達は後にナチとなります。だからタイトルの下に「あるドイツの子供たちの物語」と書かれている字がナチスドイツの好んだ旧字体であり、何にも染まっていない白いリボン(腕章)なのだなぁと思いました。

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