僕はDay Dream Believer

モロモロの日々

今日から俺の地球もゴツゴツした岩-『冷たい熱帯魚』

愛のむきだし』『自殺サークル』等で有名な園子温監督の2011年最大の問題作(まだ2月なのに!!) と言われている『冷たい熱帯魚』を観てきました!本作は監督の実体験と1993年の埼玉愛犬家殺人事件や他の猟奇殺人事件からインスパイアされて生み出された物語です。主役の社本役は数多くのテレビや映画に出演しソロパフォーマーとしても活躍している吹越満。社本を絶望へと引きずりこむ村田を普段は良い人を演じ続けてきたでんでんが演ずる。共同脚本は雑誌『映画秘宝』などでお馴染みの高橋ヨシキが務める。

家庭不和を抱えつつも慎ましく小さな熱帯魚店を営む社本は、娘の万引き事件をきっかけに同業者の村田夫妻と出会う。人の良さそうな村田の高級熱帯魚の輸入を手伝うことになった社本は、予想もしなかった破滅へと引きずりこまれていく・・・。(チラシより抜粋)

やはりこの映画で一番強烈だったのは猟奇殺人鬼村田を演じるでんでんでしょう!『羊たちの沈黙』のレクター、『ノーカントリー』のアントン・シガー、『ダークナイト』のジョーカーなど数多くの鮮烈な殺人鬼と引けを取らない新たなモンスターを見事に怪演しています。「おでん屋のちょっと良いことを言うおやじ」など多くの良い人を演じてきたでんでんというキャスティングが本当に良かったと思います。村田は普段は明るく振舞い周りの笑顔の耐えない人物なのであるが、自分の思い通りにいかなくなると気に入らない人物のボディを「透明」にする。僕はこの村田の殺人を犯すときの高圧的な態度や乱暴な口調が裏の顔に見えなかったのが印象に残りました。明らかに殺人は人にバレてはいけないことなのですが、村田には一つの生きる術としてそれを行っており、だから彼が風呂場でボディを透明にしているときに普段どおりに鼻歌が歌えるのだなぁと思いました。村田は人の心の隙間に入り込むことが上手く、社本を殺人の共犯者になるように口説き落としてしまいます。登場人物の誰よりも真理を語る村田は観客の心の隙間にも鮮やかに入り込み我々は彼の行動や言動が楽しみになってしまい爆笑さえしてしまいます。

冷たい熱帯魚』は様々な見方のできる映画だと思うのですが、僕は村田の言う「自分の足で立つ」=主体性というところが印象に残りました。主人公社本は自分のために殺人まであっさりと犯してしまう村田とは対照的で普段は嫁や娘の機嫌ばかり気にしています。他人の目ばかり気にしている社本が強烈な自我を確立している村田に説教されることによって彼に主体性が生まれる。社本の涙と叫びはこの世に生まれた産声のように見えました。主体性が生まれた彼なのですが、理想の父親像や村田のような態度を演じてもそれは彼自身ではなくどこか息苦しく、だからこそラストの発言と行動になってしまったのだと思いました。

またこの映画の人物に何もウソや綺麗事がないところにとても感動し、自分がなぜフィクションを見るのかというのを再確認させてもらいました。自分がフィクションを見る一つの理由に現実逃避=自分の中にある綺麗なものばかりで退屈な現実から逃げてフィクションの世界に巻き込まれたい願望を満たしたいという想いがあります。その願望を叶えるには物語の中で自分に近い人物や共感しやすい人物を探します。その人物が物語の中で成長すると自分も同じように成長したように思える。そこが映画の魅力の一つだと思います。でもその人物が綺麗事とかを言っているとゲンナリするわけなんですよ。現実でも綺麗事言っているのに、なんで逃げた先でも本音言えないんじゃーい!!と思うわけなんですよ。『冷たい熱帯魚』は社本の反撃以外は嘘がなく、そして自分が大事で何が悪い!という村田や後半の社本の姿を見て、とても前向きになれました。最高。

間違いなく後世語り継がれる名作だと思います。是非劇場で目撃せよ!!

愛のむきだし [DVD]

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