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モロモロの日々

思春期ぐらいに出会いたい恋-『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』

エドガー・ライト監督の新作『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』を観てきました!エドガー・ライト監督は『ショーン・オブ・ザ・デッド』でゾンビ映画をパロディし、刑事アクションへのオマージュ『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』を作ってきたのですが、本作はTVゲームやコミックからのパロディ満載でハートや擬音文字が画面中に飛ぶのが特徴的でした。主役のスコット・ピルグリムを演じるのは『JUNO/ジュノ』で注目を集めたマイケル・セラ。『スーパーバッド童貞ウォーズ』の冴えない童貞男子のイメージの強いマイケル・セラが本作では女の子を平気で傷つけていてそれがなんとも新鮮でした。バンドのベーシストでありしかも女にチヤホヤされてもムカつく野郎に見えなかったのは、やはりマイケル・セラがボンクラであり、ボンクラが女にモテまくるのは憧れであるから観ていて面白かったです!俺もスコットになりたい!否、女にチヤホヤされたい!

スコット・ピルグリムは、カナダのトロントに住む22歳のアマチュア・バンドのベーシスト(無職)。高校生のガールフレンドと付き合いながら気楽な毎日を送っていたが、ある日、超理想タイプでミステリアスな女の子・ラモーナに、一目惚れしたことで生活が一変する。ラモーナの元カレたちが、次から次と、スコットに戦いを挑んできたのだ。TVゲームさながらに、ファイアボールで攻撃し、剣をふりかざし、そして負けた者はコインとなって崩れ落ちる。バンドの勝ち抜きライブバトルと平行して、死闘を繰り広げるスコットは、果たして、7人の元カレ軍団を全員倒してラモーナのハートを射止めることができるのか?(チラシより抜粋)

スコット・ピルグリムは元々コミックであり、原作者のブライアン・リー・オマリーは日本のゲームやコミックに大きな影響を受け、「らんま1/2」「AKIRA」「火の鳥」などを愛読し本作を描き上げました。原作にも敵を倒すとコインを獲得する・胸から剣が出てくるなどさまざまなゲーム的表現が登場します。そしてエドガー・ライト監督が「ゼルダの伝説」「スーパーマリオブラザーズ」「ストリートファイター」など名作ゲームの音を盛り込み原作の世界観を損なうことなく進化させました。自分ももっとゲームしてれば本作をさらに楽しめたかと思うと少し後悔しました。あとバンドも。嗚呼、女にチヤホヤされたい!ゲームばかりでなく映画からのオマージュも多く、コロコロ変わるヒロインの髪の色と雪景色なんてまんま『エターナル・サンシャイン』であるし、唐突にボリウッドになるところはエドガー・ライトらしくて面白かったです。

僕は『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』はかっこつけの青年が男としての本物の格好良さを得ていく話であるなと思いました。自信家であるスコットは自分のことをチヤホヤしてくれる女としか付き合ってこられなかったのだがついに理想の女と出会います。しかしその彼女はあまり自分をチヤホヤしてくれずスコットの中に22歳にして(かなり遅い)初めて「どうしてもこの子と付き合いたい!」という女の子への憧れが生まれます。本作の一つの見所である戦いのシーンは、中学生の時に同じクラスの女子にCDや小説を頼まれてもいないのに貸すのを連想し、二人の男が聴いている音楽やベースプレイ、頭の良さなど自分の個性や趣味を女子にひけらかしている感じに見えました。元カレと自分の個性や趣味を戦わせていくことは自分自身を見つめることだと思いました。次々と元カレが現れ少年ジャンプのように強さがインフレしていき、聴いている音楽のセンスでも個性でも頭の良さでも太刀打ちできないラスボスに出会います。そのラスボスは金も地位も名誉もある完璧とも言える奴であり、すべてをそぎ落とされたスコットは彼女への愛情のみで戦うことになります。センスがあって良い男=儲かっているという図式もなんとも皮肉で印象的でした。そして目の前にいる元カレよりも自分は良い男に決まっているという想いと彼女に自分を愛してほしい願望はよりよい自分への成長と自己肯定へと繋がっていきます。だから平気で女の子を傷つけてきたかっこつけのスコットが自分の行動に対して責任感が持てるようになり他人を思いやれることができるようになったのだなと思いました。そして結末の選択はさらなる自分への成長になり、そこにとても感動しました。

スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド

スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド