僕はDay Dream Believer

モロモロの日々

高校時代のお話

なんだかインタビューズというものがあるらしいというのを知り、登録して書いてみたものの、全然インタビューっぽく答えられなく、なんか違うなと思って、ブログにも載せることにしました。以下本文です。

「どんな学生時代でしたか? 思い出話などを聞かせてください?」

いつも思うのだが、学生時代とは“何”学生の事を指しているのか。中学生なのか、高校生なのか、大学生なのか。普通は大学生なのかな?どうなのかな、その辺?ニホンゴ、ムツカシイネ。中学生の頃は生徒会とかをやっちゃうようないけ好かないガキだったので、高校時代の僕の淡い恋の思い出を語ろうかと思うよ。うん。

高校生のときの僕は、イケイケだった中学生の頃とは打って変わって暗い学生だった。友達はいなくて、休み時間は自分の席で寝ているか、読書しているか。担任の先生も嫌いだったし周りの男子ともなんか仲良くなれない。あまりにも学校が嫌でストレスかなんかか知らないけど毎日目が真っ赤だった。担任が家庭訪問に来たとき母親に「この子は毎日目が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」と言われたときは何か複雑な気分になりました。お前がそれ言うの!?っていう。

その頃僕が一番楽しみだったのは早く家に帰ってギターを弾くこと。登校するときも授業中もいつでも考えるのはギターのことだった。こう言うとなんか凄くスカしたガキっぽくなってしまうのでギターを始めたきっかけを語ろうと思う。

イケイケな中学三年の頃、僕は本当にイケイケだった。なんか本当に調子乗ってて狂っていた。ゴミ捨て場にダイブしたり、学校の備品の英語辞書を切り刻んでばら撒いたり、あげくそれで英語教師に怒られたのに「何が悪いんですか!?」と逆ギレしたり。本当に酷い子供だったと思います。先生、ごめんなさい。いや本当にごめんなさい。そんなイケイケな僕に転機が訪れたのは音楽の時間の前の休み時間だった。僕がいつものように男友達とギャーギャー喋っていると、教室の隅で女子の人だかりが出来ているのに気がついた。なんだ?あのハーレムは?と目を凝らしてみると、ハーレムの中心に同じクラスの男子U君がいた。U君はハーレムの中心でギターを弾き、あろうことかスピッツを歌っていたのだ!「このガキ、女子めっちゃ集めてスピッツってなんやねん!なんか・・・でも女子もうっとりしているし、これ・・・なんか・・・女子にチヤホヤされる!これ時代弾き語りやでぇ!!」と不純な動機でギターを始めた。

それから僕は兄の部屋に眠っているギターを勝手に拝借しスピッツの「空も飛べるはず」を練習し始めた。これが弾ければハーレムパラダイス!と毎日頑張ってコードもある程度押さえられるようになり「空も飛べるはず」を弾き語りすることができるようになっていた。しかしそれができたころにはもう中学時代は終わっており、音楽室でギターの腕前を披露する時間なんてものはなく、それに高校デビューに失敗した僕自身も暗い学生になっていた。

毎日家に帰ってギターを弾くことだけが楽しみだった僕は、人に披露する予定もないのに宿題もほどほどに毎日6〜7時間練習をしていた。休みの日は自転車で町の古本屋を巡りバンドスコアを買いあさる。毎日ギターのことばかり考えていた。どうせ誰にも発表する機会がないのだから自分が好きなものを弾くんだ、とビートルズストーンズザ・フー奥田民生などを練習していた。そんなときに文化祭という学生がバンドで演奏を披露して女にチヤホヤされるというイベントがあることを知る。これだ!僕が求めていたのはこれだ!と不純な動機を見つめなおし、高校三年になったら僕もこれに出るのだとボンヤリと考えていた。

高校三年になって僕はバンドをやんわりと結成した。バンドメンバーは皆僕がイケイケだった中学時代からの友達だった。何せ高校からの友達はいなかった。僕はもちろんギター。めでたく文化祭に出ることも決まり、これで僕も三年遅れの高校デビューだ!とウハウハだった。もう本当に文化祭が来る日が待ち遠しくて興奮しっぱなしだった。休み時間に机で寝るときも寝付けず、今すぐ皆が僕を起こしに来てチヤホヤしてくるという妄想ばかりしていた。「よせょ、よせよ。昨夜僕はギターの練習で一睡もしてないんだぃ」高校生のあるある「寝てない自慢」もなんだかかっこいい!

しかし三年ちょっとギターを練習し続けたことによって僕には変なプライドができていた。それは「今時の曲を弾きたくない」という他のバンドメンバーからしたら困ったプライドだった。他の出場するバンドはアジカンやオレンジレンジなどだったのだが「俺は絶対に日本語ロックは認めん!」と昔の内田裕也さんバリに頑固なっていた。でもこの頑固な精神、いやロックな精神を分かってくれる女子はいるはずだ!僕はそんな女子と付き合いたい!と思っていた。

あれ?何の話でしたっけ?・・・そう!淡い恋のお話ですよ。やっとここでオナゴが登場します。

その日、僕はたまたま教室で授業が終わった後遅くまでテスト勉強していた。教室には僕ともう一人の女の子しかいなくて、その子もどうやらテスト勉強をしている風だった。僕はその女の子に興味はなく特別意識したこともなかったので、なんか気まずいから早く帰ってくれないかなと思っていた。その時だった。

「daijobu君って今度バンドで出るんだよね?」

・・・うん?俺?話しかけられた?今のって俺に話しかけたんだよね?女子と年間2〜3回しか言葉を交わしたことがなかった僕はかなり動揺した。そして女子の方を振り返ると明らかに僕を見ていた。・・・か、かわいい。その子の名前はNと言い、ダルそうに体育をする女子とは違って、何事にも一生懸命で明るくて学級委員をするような活発な女子だった。そんな言わばクラスの人気者の女子だったからこそ僕には興味がないだろうと思い、特に意識しないようにしていた。僕はかなり動揺していたがそれを一生懸命に隠し、かなりのタイムラグで答えた。

「う、うん。そ、そうじゃ・・・だよ。」

や、やっちまったぁあーーー!!あまりの緊張に噛んでヨーダみたいな口調になっちゃったーー!!どうしよう、ジェダイマスターだと思われたらどうしよう!!優しい彼女はそんなジェダイマスターキャラを華麗にスルーし、次の質問に移った。

「へー!すごーい!何?何の楽器してるの?」

目が、目がキラキラしすぎですよ。日陰に暮らす僕にはつらいですよ。でもめっちゃかわいい。こ、これが文化祭イベントパワーか!開催される前からもうちょっと波がきてるよ!僕はちょっとかっこつけて答えた。

「ぎ、ギター。」

よっしゃーー!ちょっと危なかったがギターを噛んで義太夫と言うのだけは避けたぜ!バンドのパートで義太夫って答えるのはかなり危ない奴だからな!それだけは避けたぜ!すると次の瞬間彼女は驚くべきことを口にした。

「へーかっこいいー!じゃあ今度家に来て教えてよ!」

・・・へ?家?家って、あなた様の?家ですか?あなた様の家って年頃の女の子の住む家ですよね?え?いやまぁいいですけど。それ、だって君の部屋とかに僕が入るっていう流れとかになりますよね?それで座るとこがないからベットの上に二人で座る形になりますよね?なんかぎこちない二人・・・スピッツを弾き語る僕・・・・ウッ、ソラモトベルハズ!!ぃいやいやいやいやいや!!それ、アンタ!それ、アンタ!もう!馬鹿!駄目ですよ!いやでもこれは千載一遇のチャンスですよ!もうこれ童貞卒業の流れですよ!この支配からの!卒業!!ですよ。よし、これはもういくよ!行くよ、お宅訪問!そんないやらしい気持ちを隠しつつ冷静を装いながら僕は答えた。

「う、うん。いいよ。」
「やったー!約束だよっ!」
「う、うん。」

そのあと彼女はニヤニヤしながら机の上のノートに戻り勉強を再開した。僕はなんだかこの空間にいるのがつらくなって、それから10分ぐらいで彼女に「じゃっ」とそっけない別れの挨拶をして教室を後にした。その下校のときから僕の心の中を彼女が支配した。いつもギターのことばかりだった僕の心に初めて違うことが生まれた。それから3日に1回くらいは彼女に話しかけられることがあった。僕は話かけられても緊張のあまり毎回そっけない返事しか出来なかった。一緒に昼食に誘われるということもあったが本当にわけが分からなくなって「今日お腹減ってないからいいよ。」と答えたこともあった。かなり気持ち悪い奴だ。もちろんお腹は減っていた。帰りに半泣きでコンビニの菓子パンを食ったのは今でも覚えています。

Nに良いところを見せたいという思いもあって文化祭への思いは一層強くなった。それでも僕は最近の曲を弾きたくないという思いは譲らなかった。なぜなら彼女こそが僕の精神を理解してくれる人物だと思ったからだ。そう、かなり気持ち悪い奴だ。そういうこともあって僕らのバンドはローリングストーンズの「サティスファクション」、ビートルズザ・フーもカバーしている「ツイストアンドシャウト」、そして締めにはエリック・クラプトンの「いとしのレイラ」を演奏することにした。言うまでもないがかなり浮いていた。

そしていよいよ文化祭当日。ついに僕らはステージに上がった。前のバンドまではもちろん今時のよく知らないバンドの曲ばかりだった。だがしかし!我々が演奏するこの瞬間からこそがお前たちの真のロック体験なのである!教えてやろう、お前たちに!ロックの真髄を!とかなり気持ち悪い感じに興奮していた。ネットの映像で見たザ・フーのピート・タウンゼントが白いツナギに赤いソックスを履いている姿がかなりかっこよくて僕もあの格好がしたいと思っていたのだが、服装は学生服しか許されておらず白いツナギなんてものはもちろん無理なので、僕はせめてものと赤い靴下を履いていた。ピートの魂が俺の脚に宿る(死んでないけど)!

それからのことは興奮してあまり覚えていない。僕はステージ上でハッちゃけて腕をグルグル回す風車引きややたらとジャンプをしていた。最後にギターを壊せばまだかっこよかったものの、兄のギターなのでもちろんできなかった。それまでステージにかぶりついて見ていた女子たちはポカーンとしていた。何人かの男はノッていた、ような気がする。でも僕は満足だった。毎日練習したギターを人前で自分の納得いく形のパフォーマンスで披露することができたからだ。等身大の僕を見せることができたのがとてもうれしかった。僕は窓際で読書しているのなんて好きではなく、こう、自分のいる世界をブチ壊したかったのだと気がついた。やっとそれができて気持ちが良かった。あの子は何て言ってくれるかな。

だがNとの関係はそれまでと変わらなくてたまに言葉を交わすくらいで、もちろん僕が彼女の家にギターを教えに行くこともなかった。僕もまた家に早足で帰ってギターを弾く毎日に戻った。文化祭が夢だったのではと思ったが、風車引きでできた右手の傷を見て、現実であったのだなと確認することが何度もあった。

その右手の傷もきれいに治り3月になった。卒業式後にクラスでお別れ会をすることになっていて、一応僕も呼ばれた。お別れ会と言っても、みんなで晩飯食ってカラオケに行って帰るというぐらいのもので、人とあまり話さない僕は黙々と飯を食い、最後だというのにいつも話題の中心にいるNを遠巻きに見るだけだった。カラオケも終わり、免許を持っていたNの運転する車で一人一人送られることになった。

「daijobu君は背が高くて後ろが見えなくなるから助手席ね」
「うん。」

その日やっと僕は彼女と言葉を交わした。でも助手席に乗っても後ろに皆がいるので特に話すこともなかった。僕は家が一番遠くて一人また一人といなくなり最後にやっと二人きりになった。そこで運転する彼女と僕はやっと思い出話やこれからの事を話した。僕がこれから東京の大学に行くこと、彼女が地元で就職することなど車の静かな空間があってか、ちゃんと会話をすることができた。彼女にあの日話しかけられてからやっと会話らしい会話を最後にしてすることができた。そうしている内に僕の家の近くまで来てしまった。

「ここでいいよ。あとは歩いて帰るから」

車を脇に停めた。なんだか帰るタイミングが掴めず不思議な沈黙が流れた。Nも特に別れの挨拶をするわけでなくただ黙っていた。なんだろう、これは。・・・違う、違うんだ。これは帰るタイミングが掴めないわけではなく、帰りたくないんだ。明日からはもう学校もなくてNと会うこともなくなる。ここで何かないと一生もう会うことがないの
だとやっと気がついた。その気持ちを察してか、Nが携帯の番号を変えようと言った。ナイス、提案!俺の馬鹿!なんでそんなことも言えないんだ!「機種どこ?」とか「メールとかよくする?」とか本当にどうでもいいような話をしながら番号を交換した。

それが終わるとまた沈黙が流れた。・・・いや、これ、接吻の流れだべ。接吻くらいできるべや!なんかそうだよ!なんか言わないと・・・・なんだ?なにを言えばいいんだ?俺はなんでこういうときに気のきいたこと一つも言えないんだ!明らかに何かを待っているだろう、これは!さぁ・・・なんか・・・もうストレートに好きですっていうか!そうだろ!女子に向かってちゃんと告白なんてしたことないけど、これ言うしかないだろ!男を見せろ!足元の赤いソックスは何のためだ!ピート、俺に勇気をください!

「・・・・・・す、す、」
“ヴー!ヴー!ヴー!”

・・・うん?何の音だ?あ、俺の携帯か。静かな車内に携帯のバイブ音が鳴り響く。どうせ、メールかなんかだろ?そう思ったのだが、携帯はなかなか鳴り止まない。

“ヴー!ヴー!ヴー!”

電話か?誰だよ、こんなときに。普段ロクに電話なんてかかってくることないのに、なんでこういうときだけかかってくるんだよ。いやでも無視だな。これはシカトしよう。電話なんて鳴ってません!!携帯自体持ってません!!

「daijobu君、携帯鳴り止まないね。」

なんだよぉ!Nも俺の携帯が鳴っているということに言葉で事実として確認してしまった。クッソー!ここでこの携帯に対して何らかのリアクションをとらないと変だな。よし、電源ボタンを押そう。今はそれどころじゃないんだ。携帯を手に取りポケットから出しました。すると

「・・・あっ」

携帯の液晶に出ていたのは母の名前でした。・・・・お、おかん、こんなときに。なんなんだよ!息子が性の重要な場面に出くわしているというのに、それでも母親か!遺伝子残す気あんのか!!

「誰?」
「お、お母さん」
「夜遅いから心配してるんじゃない?」
「で、でも・・・」

お前!夜遅いとか言うなよ!じゃあなんなんだよ、今までの沈黙は!これ結構時間食ったよ!・・・母ちゃん、怒るとと怖いんだよな。あんまり心配かけたくないし・・・。でも俺は!今この瞬間が大事なんだよ!いや、でも母ちゃん!怒ると怖い!いやN!いや、母ちゃん!いやN、否接吻!いやアングリーマザー!N!母ちゃん!うぉおおおおおおーーーーー!!!

“ピッ”
「もしもし?母ちゃんね?うん。今家の近くだよ。うん、一人。もう帰るけんね。」

取ってしまった。電話を取ってしまった。おまけに一人だって言ってしまった。そしてそれを隣にいるNにすべて聞かれてしまった。なんか・・・気まずい。私なんて親に隠したいほど一緒にいるに値しない女なんだわとか絶対思っている。そうだ。もうこれは・・・帰る。帰りまーす!

「じゃっ、またね!」

“また”がないことを知りつつも僕はその言葉を口にし車を降りた。彼女は笑顔でバイバイと僕に手を振ってくれた。走り去る車をいつまでも見送る僕。これで良かったのだろうか。いや、良かったんだろう。だっておかん、怖いんだもの。そう、これで良かったんだ。僕は大学に行ってNと会うことなんて二度とないのだから・・・。さようなら、僕の淡い恋。

それから僕は大学進学のため東京に出た。番号を交換したNと最初はメールのやりとりをしたのだが、僕は大学生活が、Nは新しい職場が、とお互いの環境の変化からか次第に返信が遅くなっていき、二ヶ月くらいで連絡を取り合うことがなくなっていった。ギターは上京するときに実家に置いてきた。母親に遊びに東京に出るのと思われるのが怖かったし、もう弾く機会もないだろうと思ったからだ。

その三年後、僕は携帯を買い換えアドレス変更を知らせるためにNに久々にメールをした。すると彼女にメールは送れず、馬鹿みたいな自分の文面がそのまま自分に戻ってきた。あぁ、これで本当に終わったのだな、とその日はザ・フーのDVDを観た。赤いソックスも今では履かなくなってしまった。失くしてしまったからだ。